バーバー(2001 ジョエル・コーエン)

オー・ブラザー!」がぴんとこなかった(6,7割がたジョージ・クルーニーのせい)ので、ブラッド・シンプル以来の傑作!みたいな評を見かけて以来ちょっと期待していた。…悪くない、と言うか完成度はいつものように高いがしかし…。
 平凡な床屋がちょっとだけ人生に色気を出したために転落していく。自分の女房を寝取られたこの男は、女房の上司でもある浮気相手にブラックメールを送りつけ1万ドルをゆすり取って、新商売を始める資金にしようとする。しかし事態は思わぬ方向へころがりだし、やがて1人死に2人死に…
と言うわけで基本は「ファーゴ」と同じ話。ただし語りのスタイルはまったく違う。冒頭から主人公の一人称ナレーションで幕を開ける、床屋政談ならぬ床屋ハードボイルド。完成度、と言うか観客をうならせる度は高いと思うが、なんというか、ほぼ受身一方の主人公と、ハードボイルド的な一人称の語り口がうまく絡み合ってない感じが最後までぬぐえなかった。
なんだかなあ、と思ってパンフをめくると、もともとソーントンの役にはエド・ハリスが予定されていたらしい。なるほど。この話、エド・ハリスの顔つき(とくに「ウォーカー」のときのあの感じ)なら素直に納得できて自分的には傑作になっていたかもだ。ソーントンはうまいんだけどね…彼、かみさんと浮気相手を殺して保険金せしめるくらいのことは(うまくいかないにせよ)平気で思いつきそうに見えるんだもん。…それにあそこで事故らない。なんとか路肩に寄せると思う(笑)。ここは「かっこいいモード」じゃなく、「シンプル・プラン」の時のダメダメモードで行くべきではなかったかな。まーそうするとこの映画成り立たなくて「ファーゴ」になっちゃうんだけどね。
 その後、10/26にギンレイで再見。基本的な感想は変わらずだが、あの主人公は、さえない床屋のセルフ・イメージではないかとふと思ったりした。そうでないとF・マクドーマンドとのつりあいも取れないし。