ダークナイト (2008 クリストファー・ノーラン)

ラストまでネタバレしちょるけん気ぃつけんと。
しまった期待しすぎた。前作で沸いた「バットマンの監督にノーランってどうよ」という疑問は「やや晴れた」ってくらいで、時間と距離の感覚がややもすると失調気味になるとか、格闘が撮れないという点*1はずぇんずぇん変わっておらず、 バットマンとゴードン警部がハーヴェイ・デントとレイチェル (前作のケイティ・ホームズ色々とアレなためマギー・ギレンホールに交代) の命を天秤にかけさせられるくだりとかはひでえと思います。同じシチュエーションを完全に「図解」したサム・ライミのようなスタンスは最初から取れないわけだからもう少し何とかしてほしいわ…。護送されるデントをジョーカー一味が襲撃するシーンなんかも本来最高に盛り上がるべきところ、ひとりイライラしながら観るはめになってしまった。思うにこのチーム、根本的にシネスコサイズに向いていないんじゃないでしょうか(撮影・編集はずっとノーランと組んでいるウォーリー・フィスターリー・スミス)。
しかし、前作では中途半端にしか見えなかった「アメコミ覆面ヒーローをあくまでリアルに撮る」試みがジョーカーというキャラクターの登場によってその本来の意味を露にし始めていて、小悪党じみた登場をするジョーカーの悪意がゆっくりと首をもたげるにつれ、ゴッサム市民を含む登場人物たちがだんだん暗くて狭い穴に追い詰められていく様子、そこにかぶる甲高い嘲笑はきわめて面白い。前評判をまったく知らずに観ていたなら俺もここだけで「すごい」ってなってたかもしれん。とはいうものの、
警察無能すぎ!ジョーカー万能すぎ!⇔いやそんなことを言っちゃいかん漫画だし。でもなあ。
といった感じで漫画的誇張とリアリズムがこなれてないところがまだ多く、また本編は「登場編」であって「主人公の影としての悪役」「世界意思としての悪役」「正体をもたない悪役」としてジョーカーが本当に跳梁し始めるのはこれからでしょ、という作品でもある。バットマンがハーヴェイ・デント=トゥー・フェイス(短い命だったね)の罪をかぶって暗黒の騎士となり、アーカムアサイラムから亡霊としてゴッサムを支配するジョーカーと真の決着をつける三作目(勝手に決めた)でこの試みは本格的に完成されるのだ・・・といいなあ。ジョーカー役をやる役者は大変だけど。
あ、前作からわざわざ続投したスケアクロウ(キリアン・ マーフィー)のチョイ役っぷりがおかしかったんだが、この監督一般的期待を意に介さないタイプでもあると思うので、次作でジョーカーが出るとしても新キャラのやられ役に堕している可能性もあるな。
「俺とバットマン」的などうでもいい話をもいっこすると、バートン版一作目からの「いかにもあたしゃ飛べますよーという格好をしているのに高所から落っこちて悶絶する」ヒーローをどう容認するかという問題が自分の中ではわりと大きくてじつはいままで決着ついていなかったんだが、今作のラストの落下でやっと解消の糸口を見た。というか身軽にビュンビュン飛び回ってた奴が軽く落ちちゃあ失神してたからいままで納得いかなかったんだよ!前フリ重要。そういう意味でも三作目での悶絶ヒーロー像の完成を待ちたいと思いました。なんだそれ。

*1:いわゆる「ガチャガチャ」にもピンからキリまである問題をもうすこし自分の中で明確にしたいのだが