3/7

こうのとり、たちずさんで

蜂の旅人

狩人

新文芸坐

こうのとり〜」は初公開時に観ていて、ほかの未見の二本、とくに「狩人」目当てで足を運んだものの、午前3時から3時間、内容の抽象度レベルがいまとはダンチの70年代アンゲロプロスをぶつけられて受け止めきれずに撃沈。目覚めるとスクリーンでは登場人物たちが一堂に会したパーティがくりひろげられている。いかにもラストショット的な高揚感たちこめる画面を「ああまたやっちゃった…」とボーっと眺めていたらそこは全然終わりじゃなく、そこからの30分で長編映画一本分くらいのおなかいっぱい感を味わわせられる(←なぜか変換できた)という恐ろしい映画。黒澤明は「夢」(90年)のあとにこれを見て*1どう思ったんだろうかとふと考えた。
その前の「蜂の旅人」。養蜂業を営む初老の男。娘の結婚式でバラバラになった家族が久々に顔をあわせるものの、結局元には戻れないことを確認しただけに終わる。やがて蜂の巣箱をトラックに積み、蜜源となる花々の開花を追って南へ旅する季節がやってきた。旅の途中に出合った若い娘と道行きを共にするうちに…という、「狩人」とは逆に今まで見たアンゲロプロス作品中もっとも人物に寄りそった、アントニオーニの影響がありありと確認できる作品。大巨匠に対して使う言葉じゃないのを承知でいえば、なんか拾い物した気のする映画。

3/8

離魂

不貞の女

シネマヴェーラ渋谷

オールナイト明けで池袋から所沢の自宅へ戻り4時間寝た後渋谷に出て「離魂」でまた爆睡。なにやってんだ俺。寝るどころじゃない映画のはずなんだけどもう年だよなあ、とか思いつつ観た「不貞の女」がなかなか素晴らしかった。タイトルどおりのサスペンスなのかそれとも裏をかいた展開になるのかついつい無駄な深読みをしてしまう、ミシェル・ブーケの曖昧な表情を生かした観ようによっては色々と笑える前半*2もいいが、真ん中あたりで映画の道筋が確定してからのサスペンス(なかなか良い芝居をするアオコ)、そして明示はされないままふたりの登場人物のあいだでひっそりと秘密が共有され、その最後の瞬間に交わされる短いやりとり(泣ける)と、見事に決まった逸品でございます。
しかし、市販されてるDVDによる上映が通常興行と同じ値段なのはやっぱ釈然としないものがあるのだった。

*1:制作は77年だが、日本公開は92年

*2:ブリジットというブーケの美人秘書が、「オースティン・パワーズ」のエリザベス・ハーレイとかヘザー・グラハム的に戯画化されていて爆笑…したかったけどみんな静かなのでガマンした