田の中勇さん

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100115-00000152-jij-soci
声変わり前の男子小学生にとって裏声の「おいキタロウ」は扱いやすい飛び道具の一つである。そこへ至った経緯は忘れたが*1、三年生の頃の自習時間になぜだかクラス全男子が5分間にわたって目玉おやじを演り続けるというカルナバルが開催されたことがあった。隣のクラスの担任がたまらず駆けつけて叫んだ「おまえらなんさえずりよっとか!」の一言で一瞬全員が静まり返る。しかし5分間血圧を上げ続けたあげくに急に黙らせられた男子のうち2名が貧血を起こしガタガターン!と机ごとぶっ倒れる大音響に教室は再び騒然となるのだった。
十数年後、スタッフとして戸田恵子時代の「ゲゲゲの鬼太郎*2」の音声収録に立ち会う機会を得た。ガチガチにあがってNGを連発し周囲に謝りまくる新人女優に「そんなにあやまるこたぁない」と*3優しい言葉をかける永井一郎のダンディさ加減にしびれる俺。そのとき、やや小太りの中年の声優さんがマイクの前に立った。
「おい、キタロウ!」
!ああこのひとがあの、
「待つんじゃねずみ男!」
ホントにあの声だよ!
「はぁ〜あ〜極楽極楽ぅ」
すげえ・・・ちゃわん風呂入りてえ。
貧血起こすほど力まないとあの声が出せないのは素人の悲しさで、きっとこの田の中さんという人はお茶の子的にさらさらとあの声を出しているに違いない、というかそうでないと身が持たないはず、という思い込みをあの件以来持っていた俺だが、目の前で喋る田の中さんはセリフを一言言うたびに思い切り息を吸いこみ、額に汗を浮かばせながら叫ぶようにあの声で芝居していた。
俺はまもなくその仕事を止めてしまったので、鬼太郎のアフレコ、というか田の中さんの仕事を直に見る機会もそれきりになった。毎回あんなに奮闘していてはわりと近い将来に田の中さんの声は聴けなくなっちゃうんじゃないか、と(仕事場を一回覗かせてもらっただけの分際で)えらい失礼なことをぼんやり考えていたあのときからももう25年が過ぎ、プロというのは命削る仕事を死ぬまで平気で続けられるもんだ、と俺的には教えられた気がしています。あの声で。
合掌。

*1:おそらく何人かの女子が過剰に嫌がったせいだと思う

*2:主題歌はIKZO

*3:カリ城のジョドーっぽい声で