スローモーション(禁じられた情事 不倫妻大股びらき) (1996 榎本 敏郎)

タイトルはペキンパーとかとは関係ありまへん。本編中でのスローモーションもなかった(と思う)。主人公は茨城の郊外で電器屋に勤める男。副業(?)として屋外で効果音を録る録音技師のようなこともやっている。ある日、潮騒を録りに向かった砂浜でデンスケを回しっぱなしにしてパンツいっちょで泳いでいるあいだに、マイクに近づく白いスカートの女性の足もと。 主人公が電器屋に戻って録音テープを確認すると波音のあいだからノリの悪い鼻歌のようなものが・・・ピッチが狂っててわかりにくいが、それは「スローモーション」*1であった。
すなのうーえー きざむすーてーっぷ ほんのひとりーあそーびー*2
来生たかおのメロディがやたら物悲しいが、詞は乙女の恋の予感を歌っとります。なんだかもやもやする主人公。翌日、電器店店主にさそわれて気乗り薄でみていたストリップショーに、おもいがけず「スローモーション」をバックにおどる踊り子があらわれる。 イッツハー。*3 その翌日?(時間経過がいまひとつ分からない) 主人公と地元の友人、東京からUターンしてきた友人(川瀬陽太)の3人で軽トラに乗って遊びに出かけたダム池に、偶然連れ立ってやってきたくだんのストリップ劇場の踊り子たち。他の踊り子たちとすっかり仲良くなる仲間をしり目に、スローモーションの女と主人公は見つめあう。人工池のほとり、一段が4、50センチはありそうな大きな階段状になったコンクリートの斜面がそのまま水の中へつづき、向こう岸からの望遠レンズがひな壇の思い思いの位置に立つ若者たちを引きの画でとらえる。水際の、いちばん下の段に主人公たちは立っている。かれらと同じ段にいた吉行由美(ロリキャラ)がしりもちをつき、濡れてしまったスカートのすそを絞りながら階段を一段のぼった瞬間、主人公と女は唐突にふたりきりになる。
じっさいは真正面のロングから、主人公のななめ後ろよりスローモーションの女の表情をとらえるカメラにつないだだけなのだが、登場人物たちがひな壇にちらばる距離感を失ったショットからの移行がきまっていて、時空間が飛び「主人公の脳内でふたりきり」のような画にみえる、という美しい一瞬なんだけど・・・。
えーとここらへんで書いちまうと、スローモーションの女役の女優さんがきついです。この映画、羽衣のような布をまとった彼女の踊りではじまるのだが、これがヒロインだとは夢にも思わなかったよ・・・以下ネタバレあります。
このあと、踊り子さんとそれぞれ出来てしまった友人たちの描写と、スローモーションの女に近づこうとしてかなわず彼女がまな板ショーで電器屋のオッサンとやっているのを歯噛みしながら眺めるしかない主人公が対比される。しかし、ヒロインが美しいけれどつかみどころのない天女のような女にはどーしてもみえないので主人公の逡巡や停滞が際だたず、東京から都落ちしてストリップ小屋のオーナーと暮らしている踊り子と駆け落ちしようとした川瀬陽太の話と対称をなす強さをもてずに終わってしまう。まな板ショーの客としていちどだけ思いをとげる終幕も「やれたんか、よかったね」程度の感慨しかもてませんでした。1シーンだけ登場してみごとな踊りを披露してくれる林由美香がヒロインだったらなあ。ちゅうのは禁句か。

*1:1982年5月1日発売作詞来生えつこ作曲来生たかおオリコン初登場58位最高位30位連続39週チャートインを記録した中森明菜のデビュー曲(ワーナーパイオニア

*2:このシーンでは鼻歌のみで歌詞は出てこないけどね

*3:彼女だ・・・(誤訳)