つぐない (2007 ジョー・ライト)

ショーン・オブ・ザ・デッド」のエドガーとならんでライト兄弟と呼びたくなるが呼ばない、でおなじみのイギリスの俊英ジョー・ライトの新作。ネタバレ?そりゃあしてるさ。
1935年。13さいにして芝居なんか書いたりするこまっしゃくれた良家の娘・ブライオニー(シアーシャ・ローナン、見た目は11さい)が、姉さんのセシーリア(キーラ・ナイトレイ)とくっついた使用人の息子・ロビー(ジェームス・マカヴォイ)を、オトナって不潔!とばかりに親戚の少女暴行の冤罪をおっかぶせてしまってえらいことに、というのが導入部 (1時間あるけど)。蜂の羽音のインサート、屋敷内を早歩きする娘の移動撮影にかぶるタイプライターの音を挿入した音楽、隙を見てはちょこちょこ前後する時制と、ニコラス・ローググリーナウェイとシュレシンジャーをまぜてマイク・フィギスで割ったような(よく分かりませんね)細かいテクニックの連打。こんなにややこしくしなくてもいいだろ、ここは正攻法でブライオニーに寄りそった描写のほうが良かったのではとも正直思うが、描写が的確ではっとさせるし(書斎でブライオニーがみつけてしまう、書棚にはりついたナナフシのような格好の姉と彼氏とか)、時制ジャンプにいちいちミステリ的興味があって、やはりこういうので引っぱるのはエゲレス人はうまいや。
時代は4年後のフランスへ飛ぶ。ドイツ軍によって撃破され仲間の兵士とともに民家にひそむロビーの姿。ここからはドーバーをはさんだセシーリアとロビー、そして自分が引き起こした4年前のできごとを悔いつつ、大学進学をあきらめ看護学校にかよう成長したブライオニー(ロモーラ・ガライ。「エンジェル」からひきつづき物を書く女)の話になり、導入のシャープでチャカチャカしたスリラー風の展開とはうってかわって戦火の大メロドラマに・・・というかうってかわりすぎ、話が変にゆったりしすぎじゃね?そのわりには時制いじりしてたり一貫してなくね?*1というあなたはジョー・ライトの掌中で踊らされているのです。ちょっとこの描写はへんだよなあ、とか思ったところは、最後まで観ると のあー とか ぬーん とかなると思うので覚悟してくだはい。 ああ小面憎い。 よっぽど寝てやろうかと思いましたが最後まで観ちゃったよ。 そんな人はラストのブライオニーの述懐からさかのぼり、このおはなしの総体を想いおこして反芻することになる。 はい、たしかに胸ふたがれる話ですよ?でも映画の登場人物のくせに映画を支配する小説家はお客さんの敵*2だともおもいました。
若い役者はみな好演 (というかロビーの母親をのぞき、大人の描写はほとんどない映画だけど)。白眉はやっぱりシアーシャ・ローナンかな。しかしハイティーンのブライオニーをひきついだロモーラ・ガライも、自らの幼い高慢に復讐され傷つき、恐れを知った人間の凍りついた表情が印象的ですばらしいです。

*1:しかし「哀愁」とか「トゥモロー・ワールド」とか「赤い天使」みたいな見どころがあちこちにあってけっして飽きはしない

*2:映画の敵、と一度は書いたけど頭上でふくろうがほうほうと鳴いたのでやめました