怪談(2007 中田 秀夫)

ひさびさに金の使い方を間違えてない日本映画(12億かけたらしい)。とくに今年、時代劇の美術と撮影は「武士の一分」以降はひどいもんだったので、まともに観れる映画が出て嬉しいっす。
自分はホラーの人間じゃなく、撮りたいのはメロドラマ(女性映画だったかな)、とインタビューでいい続けてきた中田秀夫が、撮りたい題材にめぐり合えた気合がそこここに出ていてすばらしい。役者の顔がとても丁寧に撮られており、とくに豊志賀(黒木瞳)がらみのシーンは、かつての名作怪談映画に肉薄しようとするスタッフの執念が感じられる。個人的にはどんぐりマナコ(しかも小ぶり)の黒木瞳はちょっと違うんだけど、杉本彩ってわけにもいかないもんな。
大長編の原作を見事にアダプトした奥寺佐渡子もグッジョブ。最初に5人の女優をキャスティングしていると聞いたときは、「リング」シリーズの被害者みたく呪いが勝手にどんどん伝播する話にアレンジするんじゃないか?とか思っていたんだがすいませんでした、原作に忠実に(ちゅうか俺も読んじゃいないけども)因果は巡る。後半、羽生へ居つく新吉(尾上菊之助)がお累(麻生久美子)と夫婦になるが…というくだりなどはちょっと駆け足気味だが、中田秀夫の語りは、むしろその速度を喜ぶ按配で。
豊志賀との出会いから、最後に脅迫者としてあらわれるお賤(瀬戸朝香)まで、冒頭で描かれる因果の糸がちゃんと通されているのだが、ある種茫洋とした顔つきともいえる尾上菊之助には、綺麗でどんな女にも優しくてどうしようも無い新吉を演じて納得させるだけの色気が確かにあり(角度によっては犬顔が超目立つけど)文句茄子。最後の立ち回りもさすがなもんでした。
そんなわけで、大健闘しているこの映画だが、怪談映画につきもの・・・というかほとんど必須の猥雑さには欠けている。いまの映画にそこまで望めるわけがないと思っていたのだが、嬉しいことに本作にはこれを打破して立派なゲテモノ映画になる可能性も感じられた。それは尾上菊之助のやらしい存在感であり、Jホラーから継承されたいやげな描写(お累の赤ん坊…)である。ただもうひとつ重要なものがあって、それは不遇な女優さんが放つオーラなんだけど、いまの時代にこれはかなり難しいっすな(麻生久美子はいい線。キャリア的には絶好調なのに、やっぱ面白い女優だと思う)。
ちゅうか、オールナイト最終回とはいえ、初日の400席の劇場に7人しかいないとはどういうことだよ。みんな観にいけ。