奈緒子 (2008 古厩 智之)

奈緒子(上野樹里)と雄介(三浦春馬)の過去の因縁 ――雄介の父が溺れた奈緒子を救うために命を落とす―― と再会が描かれる冒頭。奈緒子が雄介に水を渡そうとする給水所のシーン、役者の生きたリアクションを確実に引きで押さえる古厩智之が、しかし全速で走り抜ける雄介と奈緒子の一瞬の表情を捉えるため採用したスローモーション。これが素晴らしい。それまでヒロインというにはあまりにも地味な顔をしていた(役柄だけどさ。そういや長澤まさみ星野真里も別に美人に撮られちゃいなかった)上野と、2枚目だけどボンヤリとした三浦の顔の印象がいきなり立ち上がってくる。視線と表情のスペクタクル。
このままこの二人の関係がからみあいつつ、クライマックスの駅伝大会(原作は知らないがそうなるに決まってましょ)でなんかドカーンとくればこれはかなり傑作に…と思ったのだが、奈緒子が西浦顧問(笑福亭鶴瓶)に呼ばれて夏合宿にマネージャーとして参加してからは駅伝の練習に忙しくなり「ちょっと微妙な二人」くらいの関係にトーンダウンしてしまう。おいおい。以下ネタバレ注意。
顧問と衝突して練習を抜けた雄介に奈緒子も付き合って走ったり、家で倒れた顧問を病院に連れて行って二人だけが病状を知っちゃったりそれなりにイベントはあるけれど、常に中心にいる雄介と比べて奈緒子が後景に下がってしまい、スポーツ映画としては普通に楽しめるものの、クライマックスの駅伝大会(やっぱり)で顧問が奈緒子に語る「雄介の親父が死んでから、あいつと一緒にずっと走ってきたのはお前や*1」という言葉に説得力は感じられなかったのである。
雄介に限らず「走り」のシーンは全般的に良く*2、特にライバル校のエース・黒田(綾野剛)は「かっこいい宅八郎」みたいなルックスと素人目にも見事なフォーム(加速が気持ちいい)が見もの。また、話をまとめあぐねて描き切れていない部分でもキャラクターの輪郭だけはわかるよう配慮されているので「『奈緒子』というタイトルの映画を見に来てる」ことを忘れられれば気持ちよく劇場を出られると思いマウス。惜しかった。
鶴瓶かいせつ:病室で点滴を打つ雄介に「お前なんであの時水を受けとらへんかった」とポツリと問うシーンから、鬼コーチに急変して部員をしごく→緊急入院→浮き袋でプーカプカ→崖の上で泣かせ→ラストまで、実質この映画の主といっていい。鶴瓶度98。

*1:少なくとも高校からは長崎にいる設定なのになぜかバリバリの関西弁

*2:どうみたってみんな飛ばしすぎだけども、映画なのでこれでいいのだ