星の母べえ(2007 山田 洋次)

思想犯として投獄された夫(坂東三津五郎)の帰りを待つ母べえ吉永小百合・撮影時62歳)。12歳と9歳の娘(初べえ=志田未来・照べえ=佐藤未来)がおり、夫の教え子・山崎(浅野忠信)が無法松チックな恋心を抱く。としまえんが芸術座に思える2時間余*1。 
途中海水浴のシーンがあってヒヤリとするも病み上がりということで母べえは着衣。だがほっとしたのもつかの間、おぼれた山崎を助けるため海に飛び込む母べえ(本当に吉永に泳がせている)! 係員の指示に従って避難せねばと腰を浮かせかけましたが 透けブラなし。透けブラなし。落ち着いて席に戻ってください。 何を言っているのだ俺は。
マジメな話、特高警察の笹野高史や、もっぱら保身から夫の行状を責める母べえの父・中村梅之助、夫の師・鈴木瑞穂らのクローズアップが絶妙な醜悪さで描かれていてここらへんはヨージヤマダの面目躍如なのだが、正直これらより吉永のアップのほうが見ていて不安になります。
もちろんY.Y.はまったく無策でこんな真似をしているわけではない。照べえの回想視点が語りの基調になっているので、情景が観客のなかで二重にフィクション化され、生々しい実感から遠くても了解しやすい*2のは計算に入ってるはず。なにより母子情話で涙を絞るテクニックは一朝一夕のもんじゃなく、いまどき「おなかすいた」系の催涙効果をこれほどハイレベルで維持できるのはダブルYしかいまい。観客の8割をシニア層が占める劇場はみごとにパキスタンのモスクかマニラのホテルかと見まごう惨状を呈していたのだが… 以下ネタバレ注意。
しかし最後までみると、結局このキャスティングを通したのは「母べえのなかの女の部分など(どうせうまく描けないし)邪魔だ、この話で言いたいことはこれしかねえんだ」というワイツーの本音だという気がする。南方で船底に穴をあけられて沈みゆく貨物船の中で溺れる山崎の死が直接的に描写された*3後、時代はいきなり現代へ飛ぶ。母べえが死の床についている病院へ向かう成長した照べえ(戸田恵子)。いきなり険のあるオバちゃんになった照べえに慣れる暇もなく、母べえが放つ最後の一言。なんかミヒャエル・ハネケの映画みたいな終わり方。もしくは呪怨2酒井法子のやつ)。
鶴瓶かいせつ:中盤で母べえの家に転がり込む奈良のおじさん。笑顔に金歯を輝かせ、「ぜいたくは敵だ」の婦人会に食ってかかり、思春期に差し掛かった初べえをまったく無自覚なセクハラで泣かすというたいへん素晴らしいはまり役。奈良へ帰る汽車の中から「おじさんは吉野の山で野垂れ死ぬかも知れんなあ」と笑った顔に その後本当にそうなった というナレーションがかぶる去り方*4もサイコー。出演時間は長くないものの鶴瓶度は90の高得点。

*1:後記:・・・としまえんだけに・・・とし・・・・・・ま・・・(このエントリ作成時に気づかずスルーしてしまった自分は万死に値する)

*2:cf. ちびまる子ちゃん。 最初佐藤未来森迫永依に見えた

*3:一度海水浴で溺れかけたのをコミカルに見せられているので衝撃が上乗せされて、客席から悲鳴に似た声が漏れた。なかなかに鬼畜である

*4:具体的描写はないが、長逗留を母べえにやんわり咎められ肩を落としての帰郷というのも含め、寅次郎や風来坊の系譜に連なるキャラでもある