接吻 (2006 万田 邦敏)

孤独なOL(小池栄子)がTVで見た一家惨殺犯人(豊川悦司)に勝手にシンクロしてしまい、担当の国選弁護士(仲村トオル)を通して拘置所にいる犯人に近づこうとする。やがて第一審で死刑判決が下されるが…以下ネタばれしますよ。
足繁く法廷に通い犯人宛の手紙を書き、面会が許される様になると犯人に婚姻届への捺印を迫るヒロイン。犯人の兄に会うため出向いた先では弁護士に、面会の場では犯人に自らの孤独について語る言葉をもつ彼女は、本気で取り付く島のなかった「UNloved」のヒロインとはずいぶん違うようだが、その多寡にかかわらず予め言葉は拒絶されているという点では同じことである。いや待て聞き手が仲村トオルじゃなければまだなんとかなったような気もするな…てことでここはもう鉄板のキャスティング。
キャストでいうとワンシーンだけの篠田三郎もよかったです。まだ中学生の弟を残して崩壊家庭を抜け出して群馬(だったか)で家庭を築き、「幼いころ世話してくれたお兄さんには心を開くかもしれないので、控訴を勧めてほしい」という弁護士に向って「私には冷たいところがある」と前置きしつつ「弟には死刑になってほしい」と言い放つ。孤独を感じるのが一種の特殊能力であり天下一“だれが一番孤独か”武道会を行っているようなこの映画で、自分にその能力がなきがゆえに弟を現在の立場に追いやってしまったことをうっすらと自覚しつつまた日常へ戻る、作業着を着た50がらみの胃の悪そうなお父さん。
リアルに想像すると野嵜好美になりそうなヒロインを小池栄子が頑張ってやってます。顔幅広いのが正面ショットだと凄く気にはなるものの、やっぱいいのは目をギラっとさせて相手を睨んだり啖呵切ったりするシーン*1。予告編でも使われてた、自分を取り囲む記者たちに向って小池がニマーッと笑うところは本編でみるとヤバイ感が充満しておりなかなかすごいです*2。伊達にプロレスラーのカミさんじゃないというか、やはりこの人がこの映画に闘気を持ち込んでると思った。
中盤で、このまま共感の物語に振れるのかな(なにしろ「ありがとう」も撮れる人だから)と一瞬思わせておいて上記のニマーッから確実に最終バトルへ向けて不穏さを増した映画は、劇場のOLさんが「ええーっ」と声を上げた「衝撃の」ラストへ。ここになぜかただよう不思議な高揚感は忘れがたいものがあり、わずかな希望で絶望をおいしく見せるという、メロドラマ作家万田邦敏の本領発揮の証といえよう。すいません適当言いました。でもオススメ。

*1:どこでどんなふうに切るかは見てのお楽しみ

*2:そのあと記者たちから走って逃げる俯瞰の図でなぜか笑った