クライマーズ・ハイ (2008 原田 眞人)

「信じるものに命を賭ける」男たちが「真っ正面からぶつかりあう」「社会派」アメリカ映画、を作ってるつもりで妬み僻み嫉みの日本社会を描くシリーズの最新作。もはや悪びれすらしない全編に漂う大づかみなオヤジ感はいつもどおりながら、原田眞人好みの体育会系で多人数でハイテンションな演出は「だれもが知っている大事件」を後ろ盾に正当化され、いくら修羅場だからってこれはありえないだろーという描写の連続を「映画だからこれでいいのだ」と押し切れるパワーを獲得。「金融腐食列島 呪縛」「突入せよ! あさま山荘事件」に次ぐプロジェクトXものとしてのアベレージをキープすることに成功しております。やっぱり悪びれないってのは重要で、照れが入ってしまうとエンジンのかかりが悪くなっちゃうんだよ。客も結構入っていたし、原田は今後の監督人生をこの手の作品に絞り込んでみるといいかもしれん。
原作は未読だが、映画は自分のシマで起きた大事件に、中央に対抗して意地をみせる地方のブン屋の物語であって、人の生き死にを扱う事件報道のモラルは無難な申し訳程度に出てくるのみ。その点を踏みにじるような映画ではないとはいえ事件そのものがダシにされてる面は確実にあり、だから遺族の方も含めた試写をやっておおむね好評だったというのをあとで知って驚いた。怒る人がでてこない(いるのはいるかもしんない)のは、23年って時間が経過してるんだなあと。
俺の苦手な堤真一が全編にわたってザ・堤演技を見せてくれるのだが、この映画に関してははまってますね。かつての大久保・連赤事件スクープの功績で編集部上層に居座る上司たち(蛍雪次郎、中村育二遠藤憲一)と、堤を頭にした部下たち(田口トモロヲ、マギー、でんでん、堀部圭亮)のバトルはそのありえなさを含めて楽しめるし、明日の一面トップを信じつつ現場へ強行軍で向かう若手敏腕記者(堺雅人)や事故原因の真相に接近する女性記者(尾野真千子)も普通の作品ならなかなかやれない悪相を思う存分見せきって、ここらへんは’70年代によくあったワナビーハリウッドな見世物大作邦画、21世紀に蘇る!という感じ。なこと言われても嬉しくないか。
一方で山崎努演ずる新聞社社長と堤の隠された関係、堤と山登り仲間(高嶋政宏)とその子供達という「父と子」テーマの部分は過大に描かれすぎててつまんない。たかだか地方新聞社の社長なのに最上階フロア1階ぶち抜きの社長室で絶対権力者として君臨する山崎努の造形も、しょせん堤に辞表出されてオロオロする程度の度量だし(これが佐分利信仲代達矢ならこんなオチで許されるかという)、ラストシーンもそもそもたいした葛藤がないのに「和解」されてもなあ。息子に甘いと親父の仕事の質が落ちるという事実のほうがより重要だと思います。
そういえば皆川猿時も出てくるんだなーくらいに思っていたら、「俺が売らなきゃこの新聞は潰れんだよ!」とニヤニヤ笑いながら編集局員たちを恫喝する販売局長という、思いのほか大きな役で堤や遠藤と立派に渡り合っていて・・・むしろ笑ってしもうた。